研究内容 2023.2.13 現在
脳の確率性を生かした新しい学習様式の探求
ニューラルネットワークは現在発展を遂げている人工知能の基盤技術であり,生物の脳をヒントに提案されましたが,最適化という緻密な計算を必要とするため,脳のニューロンやシナプスが示す強い「揺らぎ」とは整合しない問題があります.この「揺らぎ」とは,脳ではニューロンやシナプスが,あたかもランダムに,つまり確率的に動作することを意味し,最適化のような緻密な計算とは一致しないようにみえます.「脳の学習は最適化ではなく、適切な具体例を生成するサンプリングではないか」と考えることでこの問題を解決し,揺らぎによって最適化なしで学習するニューラルネットワークの構築を目指しています.
神経回路の特徴的な構造と活動の調査
脳の神経回路では,外界の状況に応じて「神経細胞ネットワークのつながり」が変化し,そこでやりとりされる「スパイクのダイナミクス」が変化しています.しかし,どのような「つながり」や「ダイナミクス」が,脳が機能を果たすために本質的なのか,例えば,いつ,どの領域・層で,どの細胞が,どのようにして,「何が起こること」が本質的な要素なのかは明らかになっていません.これらを明らかにするために,近年,高集積電極等によって得られている大規模神経活動のデータ解析を行うことにより,活動中の脳の神経回路のつながりと,脳機能につながるダイナミクスについて調べています.
錯覚などを利用した多感覚相互作用の調査
生物が外界の情報を処理するときに,通常の私たちが知っている機械からすると「間違い」であるような情報処理が行われることが知られています.この「間違い」を逆手にとって,生物特有の情報処理について,脳波による脳活動計測や,心理物理実験や,これらに基づく数理モデリングにより,明らかにすることを目指しています.特に,1つの感覚ではなく,複数の感覚が統合される際に生じる不思議な現象について中心に研究しています.
時間に関する確率性の調査
エネルギーの低消費化が望まれる現代では,低消費エネルギーデバイスの代表である脳をまねした情報処理様式の実装化が期待されています.その候補として,動的かつ確率的な情報処理様式が有力視されていますが,これまでの研究では,動的と確率的の両方を満たすような計算様式は見つかっていません.この両方を取り入れるためには,生物がもつ,時間に関する確率性について詳しく調べる必要があります.そこで,外部のリズム情報に合わせて運動を行う感覚同調運動課題や時間間隔記憶課題を用いて,これまでバイアスとして否定的に理解されてきたタイミングのずれとばらつきに着目して,脳波による脳活動計測や,心理物理実験や,これらに基づく数理モデリングにより,時間に関する確率性について調べています.
認知バイアスなどの脳内メカニズムの調査
私たち人間は,いつもいつも必ずしも合理的な判断をできるわけではありません.一見すると「ダメ」なことのように感じられますが,そもそも生物は機械のように「最適化」をするシステムではなく,別のルールに基づいて動いているシステムだと考えると,違った見え方がするかもしれません.通常「認知バイアス」として知られている現象,例えばプロスペクト理論やアンカリング効果などが脳の中でどのように生じているのかについて,脳波による脳活動計測や,心理物理実験,また動物による行動実験中の神経活動計測,そしてこれらに基づく数理モデリングにより明らかにすることを目指しています.